那智大社から大門坂を下りて、二車線の県道ぞいでなく、旧道といわれる道路沿いに
今回のコースはなります。
この辺りは、私が小学校時代からうろうろ?してたところなので思い入れもたっぷりです。
旧熊野別当屋敷の近くには浄水場があって、
かぶとむしがたくさん採れましたし、遠足(野外学習やったかな?)で陰陽の滝へも行きました。
陰陽の滝から那智の滝の奥にかけては那智原生林といい、
杉や檜の植林された森でない、照葉樹林であり、太古の昔を思わせる鬱蒼としたたたずまいを
残しています。
那智原生林についてはまた、別の機会に稿を設けたいと思います。
  熊野別当とは古代末期から中世前期にかけて
熊野三山で権勢を誇った家のことで、熊野各神社に
奉仕する社僧や熊野の御師、熊野地方の武士団の
総帥でもあり、代々世襲でした。
特に有名なのは、源平の合戦で現時に味方した
二十一代目別当の湛僧でしょう。
熊野水軍を率いて、壇ノ浦の合戦で源氏の勝利に貢献し、
頼朝より、賞されて御家人に任ぜられ
最上位の僧位である法印に叙せられています。
【旧熊野別当屋敷跡】
 

 
【那智原生林の入口】
菌糸類の宝庫で、鬱蒼と茂った森に引き込まれそうです。
  【陰陽の滝】
通称、東の谷にあり、那智四十八滝のうち第三十七番
になり、別名「奈可悟」の滝といいます。
太い方が男性、細い方が女性を示すといわれています。

 
【陰陽の滝とお札】
滝行を行う際につけられたのかもしれません。
  【夜美の滝】
東の谷支流の通称、くらがり谷にあり、
四十八滝のうち、第三十九番にあたる。
別名「久良雅里(くらがり)の滝ともいう。
昼間でも暗い森の中にひっそりと流れ落ちていて
神秘的な滝です。
この谷には、南方熊楠も好んで入ったともいわれます。

 
【旧道から祠を見る】
変わった形の祠が見えます。
一体何が祀られているのでしょうか?
  【祠】
石積みの素朴な祠。
昔は気づかなかったんですが。

 
【那智川】
ここで泳いだり、釣りをしたり
たいがい(いっぱい)遊ばせていただきました。
  【お杉社】
天照大神と忍穂耳尊(おしほみのみこと)
葺不合尊(ふきあえずのみこと)が祀られていました。
昔は九十九王子のひとつでしたが、移されています。
境内に天照大神がお姿を現されたという影向石が
あります。

民話の紹介

色々な民話や説話がこの地域には伝わっています。
普段ではお目にかかることの無い難しそうな本でしか
そんな、民話にはお目にかかれなくなりました。
代々、語り伝えられてきた昔話が途絶えていくのも寂しいものです。
そういうことで、古道に沿ってちらばる話を少しでも書き写していこうとお思います。


(第一話)

不老不死の貝


うっそうと原始林におおわれた那智のお山には、四十八滝と呼ばれる、たくさんの滝が落ちています。中でも那智滝と呼ぶ
一の滝は、ご神体であるとあがめられ、昔からたくさんの行者が修行しています。この滝水に打たれると霊験があると
信じられているからです。そしてこの水は、延命長寿の薬ともいわれています。
というのは、昔、大変信心深く徳のたかい法皇さまがいらっしゃいました。
ある時、那智の滝へ行かれ滝水に打たれて身を浄めておられると、雲に乗って竜神が天から降ってこられました。法皇に向い、
「あなたは大変立派なお方だから、これを受け取ってください」
と言って、如意宝珠というどんな望みでもかなえてくれる玉一つ、水晶の念珠一連、穴が九つもあるアワビ貝一つを
うやうやしくさし出しました。法皇はよろこんで受け取られましたが、九穴のアワビは、
「せっかくくだされたが、これは後の代の行者のために残しておこう」
と仰せられて、一の滝ツボに放たれました。
何代かの年月が流れました。
そのころ、那智の滝つぼには不思議な貝がいて、それを食べると不死身になるといううわさがありました。
それを取ろうとして、たくさんの人が滝ツボに潜っていきましたが、誰も見つけることはできませんでした。
時の法皇様も、その貝をぜひほしいと仰せられ那智の滝へ行かれました。
法皇の命令で、深い滝ツボに一人の海人がもぐって行きました。
今か今かと待っている法皇たちの前に浮かび上がってきた海人は、
「滝ツボの底の方に、何か光っているものがあるので、それを目当てにもぐって行きました.。それはカサを
ひろげたほどの大きなアワビで、九つの穴からアワをふいておりました。私が取ろうとして近づくと、
『取ってはならぬ、これはさきの法皇様が行者たちのためにと残されたものじゃ』
という声が聞こえてきました。そのとたん、私の身体はしびれたようになり、知らぬ間にここまで浮き上がっておりました」
息もたえだえにこう言うと、気を失ってしまいました。
不思議な貝とは、何代か前の法皇様が放たれた九穴のアワビで、それが生き長らえてカサほどの大きさになっていたのです。
法皇様は、
「そういう深いお心を知らず、取ろうとしたわたしが悪かった。これからは決してこの滝ツボを汚すことの無いように」
と仰せられて、都へ帰られました。
それからこの滝水は延命長寿の薬水だといわれるようになり、
それは滝ツボに不老不死のアワビがいるからだと信じられています。

出展:紀州の民話 株式会社 未来社 編者 徳山 静子 より